かんたんにヒトゲノムについてまとめ(朝日新聞)本日付け


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投稿者 おいちゃん 日時 2000 年 6 月 28 日 12:55:38:

Asahi NewsPaper | Morning Issue

JUNE 28,2000

■遺伝情報の解読――自分をどこまで知るか

 《図》 染色体とDNA
 人間の遺伝情報を大まかに読み取り終えたと、クリントン米大統領が宣言した。
 子が親に似るのは、遺伝情報が親から子へと伝わるからだ。この情報の全体をゲノムと呼ぶ。それを保持しているのは、細胞核に含まれるDNAと呼ばれる物質であることが、半世紀ほど前にわかった。

 DNAを石板に、遺伝情報を古代文字になぞらえてみよう。文字は4種類しかないが、30億個も並ぶ。石板には土が固くへばりついていて、土をとろうとすると、石板はこなごなに割れてしまう。破片を拾って文字を読み、それらをつなぎ合わせて全文を復元する。気の遠くなるような作業だが、それ以外に全文を解読する方法はない。

 まだ破片がうまくはまらないところが一部に残っているものの、おおむね解読完了というところに、人類はたどりついた。
 遺伝情報は人間の設計図ともいえる。受精卵は、自らのうちにある情報を頼りに、脳神経や内臓や目鼻や皮膚を形成して赤ちゃんになる。その設計図の文字列の全容がほぼわかったのだから、人類の月面到着に匹敵する出来事といっても過言ではない。

 「100年かかる」ともいわれた事業だが、技術の急激な進歩に、米国、英国、フランス、日本などが参加した公的研究陣営と民間のベンチャー企業の競争が加わって、スピードアップした。

 クリントン大統領は「遺伝子情報を利用した新しい薬づくりの幕開けであり、病気の治療や診断、予防について新たな時代が始まる」と研究者たちをたたえた。
 しかし、本当の難関はこれからである。文字列の全容がわかっても、それだけでは、ほとんど実際の役に立たない。
 途切れることなく続く文字列のどこからどこまでが意味のある文なのか、その文は何を指示しているのかがわかって初めて、病気などとのかかわりが明らかになるからだ。
 文字列のなかで、たんぱく質を作る指令を出している部分を遺伝子と呼ぶ。人ひとりにつき約10万個と推測されている人間の遺伝子のうち、解明されているのはごく一部に過ぎない。

 医療に役立つ成果を出すには、病気の人とそうでない人の遺伝子を比べたり、特定の病気になる実験動物を調べたりするといった研究が必要になる。
 ●差別を生んではならない
 世界の研究者たちはすでに、こうした第2幕の研究に突入している。そこは可能性と同時に、倫理面やプライバシー面などに多くの問題をはらむ世界である。
 遺伝子に関する知識が増えれば、遺伝子検査が日常的に行われるようになるだろう。研究者は、それによって個人個人にあった薬剤や治療法を選べる「オーダーメード医療」もできるようになるという。

 だれも自分に効かない薬は飲みたくない。重い副作用のある薬となればなおさらだ。オーダーメード医療は確かに画期的だ。
 しかし、一方で、遺伝情報は究極のプライバシーであることを忘れてはなるまい。
 遺伝情報には「将来の可能性がわかる」「家族についての情報もある程度わかってしまう」という特殊性がある。
 「40代でがんになる可能性は80%」などということがわかることが、はたして個人にとって幸せなことだろうか。
 私たちは、「知る権利」とともに「知らないでいる権利」をも持っているはずだ。どちらの権利を行使するか、一人ひとりが自分で決めなくてはいけない。そんな時代がすぐそこにきているのだ。

 となれば、医療現場には、検査の意味をわかりやすく伝え、知ることの是非を本人と一緒に考えてくれるカウンセラーの存在が不可欠となる。
 遺伝情報による「差別」も大きな問題となるだろう。たとえば、個人の努力では変えようのない遺伝情報をもとに、会社が採用や人事の判断を下したらどうなるか。クリントン大統領は、「医療保険の加入に際して、遺伝情報で差別してはならない」と繰り返し述べている。

 差別を禁じる法律の整備とともに、遺伝情報というプライバシーが外に漏れないようにする仕組みも整えなければならない。
 猛スピードで進む研究に、そうした社会的な備えが追いついていないのが現状だ。とくに日本は、生命倫理の研究者層が薄い。医師や医学研究者が患者の意思をどれだけ尊重してくれるかも、心もとない。

 ●どう図る倫理と事業の調和
 日本のバイオ研究は欧米の後塵(こうじん)を拝しているという評判がもっぱらだ。いま、官民あげて追いつこうとしているが、産業の側面だけでなく、社会的な問題への対策にも十分な資金とエネルギーを投じてもらいたい。

 遺伝情報の取り扱いは人類共通の課題でもある。ユネスコが1997年に出した「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」は、「象徴的な意味において、ヒトゲノムは人類の遺産である」と位置づけ、「自然状態にあるヒトゲノムから経済的利用を生じさせてはならない」と規定する。

 その精神と、遺伝子ビジネスを、どう調和させていけばいいのか。間近に迫った主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)を始め、さまざまな機会をとらえて社会的な議論を巻き起こす必要があろう。


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