Re: 真空のゆらぎ


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投稿者 松本 日時 2000 年 12 月 02 日 21:26:07:

回答先: Re: 真空のゆらぎ 投稿者 星は何でも知っている 日時 2000 年 11 月 30 日 20:12:23:

|> ゆらぎとは、粗.密.粗.密のなみ、拡大と縮小のなみ
|> 何か生まれそうですね。

∇以下は、補足です。
「トムキンスの冒険;G.ガムフ」より
[第14話]真空に穴がある話
 紳士ならびに淑女諸君
 今夕これから論じようとしております問題は、きわめて
興味深いものであると同時にたいへん難解でありますゆえ、
あらかじめ、みなさま方の特別なご注意を喚起しておきた
いと存じます。私がお話しいたしますのは、「陽電子」と
して知られているきわめて異様な諸特性をもった新粒子に
ついてなのであります。この新粒子の存在が、実際に探知
されるにさきだつこと数年前に、純粋に理論的な考察にも
とずいて予言されたことははなはだ教訓的な事実でありま
す。しかも理論により、その粒子の主要な諸性質が予見さ
れていたことは、実験上の発見を大いに促進せしめたので
あります。この新粒子が存在することを予言しました栄誉
は、イギリスの若き物理学者ポール・ディラックがになっ
ているのでありまして、彼はたいていの物理学者が長らく
信じようともしなかったほど風変わりで空想的な考察をも
とにして、その結論に到達したのであります。ディラック
理論の根本的な思想は、つぎに述べる簡単なことばのなか
に要約されます。すなわち真空空間に穴がなければならな
いというのです。皆様方、たいへん驚かれたようにお見受
けしますが、ディラックがこの意味深長なことばをもらし
たときには、まさに全物理学者が同じく驚倒したのであり
ます。真空空間にどうして穴がありうるのでしょうか?
いったいこのことばはなんらかの意味をもっているのでし
ょうか?答えはイエスなのです。しかし、いわゆる真空と
いうものが、私たちの信じているほど実際にはからっぽで
ないというただし書きがつくのであります。事実ディラッ
クの主要点は、つぎの仮定から成り立っています。すなわ
ち一般に真空と考えられている空間は、実際にはふつうの
陰電子が、無限個数、稠密に詰め合わされたものであり、
その充填状態はきわめて規則的かつ均一であるというので
あります。かかる奇妙な仮説が、たんに空想の産物として
ディラックの頭脳に生まれたのではないことはいうまでも
ないのでありまして、彼はふつうの陰電子理論に関する深
い諸考察の末、やむなくこの理論に到達したともいえるの
であります。実際この理論に従えば、必然的な帰結として、
原子内部における運動の量子状態以外に、あくまで真空空
間に属するところの特別な、「負の量子状態」が無数に存
在していることになるのです。そしてもし、電子がこの
「はるかに居心地の良い」運動状態に逃避してゆくことを
さまたげるものが何もないとすれば、電子はすべてみずか
らの原子を見限って、空のなかへいわばとけこんでゆくで
ありましょう。その上電子が、この居心地の良い場所へ逃
避してゆかないようにする唯一の方法が、その場所をなん
らかの他の電子によって「占有させておく」ことにあると
すれば(パウリの原理を想起していただきたいと思います)
、真空におけるあらゆる量子状態を、全空間にわたり無数
の電子によって均等に満たしてしまわねばならぬことにな
るのであります。私のことばが、わけのわからぬ科学的呪
文をあやつってでもいるようにお思いになるかもしれませ
んが、そしてそのために、みなさま方にはぜんぜんご理解
願えないのではないかと恐れているわけなのですが、お話
しして問題自体がほんとうに難しいものなのでありまして、
熱心なご傾聴をいただきさえすれば、ついにはディラック
理論のなんたるかに関して、いくらかでもご理解は願える
ものと考えるしだいであります。
 さてディラックがとにもかくにも到達しました結論は、
真空が電子によって稠密に充填されていること、しかも、
その分布は均一ではあるが無限に高い密度を持っていると
いうことなのでした。そうすると、私たちがそれらの電子
をぜんぜん感知することなく、真空とは絶対的に空虚な空
間であると考えている理由はどこにあるのでしょうか?
 もし、みなさま方が、いま、大海のなかに生息している
深海魚の立場に立ってお考えになりますれば、この疑問に
対する解答はかなり明らかになるのではと存じます。その
深海魚は、たとえこのような疑問をもつほどすぐれた知能
を有するものだとしても、自分が、海水によって取りかこ
まれていることを自覚するでありましょうか?



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