投稿者 松本 日時 2001 年 6 月 30 日 19:46:05:
∇多宇宙という考えは以前からありますが、再度
読み直してみると、壮大なスケールの話であると
ともに、どのようにしたら確認できるのか興味深
いところです。
「宇宙進化論,ジョン・グリビン,2000年,
原書1993年」より
”プロローグ”
*バウンスする宇宙
・一般相対性理論によると、ビッグバンから宇宙
が突然生まれてくることと、巨大な物体がブラック
ホールへと崩壊する過程を時間反転した「鏡像」と
は、まさに同じである。このことはロジャー・ペン
ローズとスティーヴン・ホーキングによって、1960
年代の終わりに証明された。
・それでは前のサイクルにあった宇宙の特異点への
崩壊は、文字どうりブラックホールの崩壊と言える
のだろうか。何人かの研究者がその可能性と意味を
探求し、目覚しい成果を手にした。すなわち、
ブラックホール(どのようなブラックホールであれ)
の崩壊は、新たな宇宙をつくりだす「バウンス」を
実際に引き起こすということを発見したのである。
・この研究には新たな興味深い意味が二つ含まれて
いる。
・第一は、新たな宇宙をつくるのに、宇宙全体を
崩壊させる必要はないということである。太陽の
三倍から四倍の大きさの恒星でつくられたブラック
ホールでも、特異点で物理法則が変化させられる
ため、それ自身バウンスして大きな宇宙をつくる
ことができる。しかし、その宇宙はどこに存在する
ことになるだろうか。ブラックホールからバウンス
して我われの世界に入ってくるのではなく、それ
自身の新たな次元のなかで膨張するのである。
・第二は、このようにして新たに一個の宇宙が
ビッグバン・バウンスでつくられるたびに、それが
生み出されたときの物理法則は、親宇宙がもって
いた物理法則と多少異なってくる。つまり突然変異
を起こすのである。例えば、親宇宙よりも
「ベイビー」ユニヴァースのほうが、少しばかり
重力が強く(あるいは、弱く)なっているかもしれ
ない、ということが考えられるのである。
*生きている宇宙
・これらの発見により、我われの宇宙は数多くある
宇宙の一つにすぎない、という考えが生まれてきた。
それとともに、多くの宇宙は、ある意味では、存在
権をめぐって互いに競争しているという考えも出て
きた。それでは、この宇宙間の競争は、地球上の
生物同士の生存競争のルール(ダーウィン的意味で
のルール)に従っているのだろうか。我われの宇宙
は生きているのだろうか、またそれは自然淘汰に
よって進化してきたのだろうか。
”第9章 生きている宇宙”
*我われはブラックホールの内部にいる
・我われは、かつて人びとが知り得たよりもずっと
正確に、宇宙はどのようにして存在するようになっ
たのかということだけでなく、宇宙は何から構成
されていて、異なる種類の物質がどれくらいの量、
存在しているのかを、知っている。恒星を生み出し、
それをブラックホールへと転換することが、非常に
効率的に行なわれているため、宇宙はこのために
デザインされたかのように思われる。
・また、我われは、宇宙の究極的運命について、
いつか現在の膨張が停止し、逆転し、宇宙を生み出
した特異点とは鏡像関係にある特異点へと崩壊して
いくことを、知っている。実際、我われは巨大な
ブラックホールの内部で生きているのである。この
ブラックホールはあまりにも巨大なため、内部に
何十億個ものブラックホールを含んでいる。さらに
我われは、ブラックホール内部の特異点へと崩壊
していくものに何が起こるのかをよく理解している。
・数理物理学者がブラックホールや特異点について
考え始めたとき、彼らは特異点に落ち込む物質に何
が起きているのかについては、あまり心配しなかっ
た。第一に、特異点はブラックホール内部に生じて
いて観測できないため、特異点に何が生じていても
それほど問題ではない、と思っていたのである。
第二に、特異点では物理学の理論が通用しなくなっ
てしまうため、大半の研究者たちは、無限に圧縮
された一点では物質は文字通り押し潰されてしまい
存在しなくなる、といって満足していたのである。
・宇宙は特異点から生まれてきたという認識と、
我われはブラックホール内部で生きているという
COBEが確認した証拠とにより、急遽ブラック
ホール内部で起こっていることを気遣う必要はない
という主張は引っ込められることとなった。我われ
は、宇宙内部で何が起こっているのかを、どうして
も知りたいのである。
*膨張特異点
・特異点への崩壊を、我われの宇宙で観測している
ような特異点からの膨張へと転ずるには、何が起こ
ったのだろうか。これに関する最も素朴な予測は、
単に特異点に「バウンス」があって、崩壊が膨張に
転じたとするものである。残念ながら、これはうま
くいかない。三次元の空間と一次元の時間からなる
時空の崩壊によってつくられる特異点は、同じ時空
内で反転し爆発・膨張することはできない。しかし、
1980年代には、相対論学者は、次のように理解して
いた。すなわち、我われの三次元の空間と一次元の
時間からなる時空内の特異点に落ち込んでいく物質
が、時空の歪みによってそらされ、別の次元(別の
時空)で膨張特異点として出現していくことを禁ず
るものは何もない、と。
・今や多くの研究者たちは、ブラックホールの崩壊
は出口なしの片道旅行だとするのではなく、どこか
別のところ、つまり、それ自身の次元のなかで膨張
している新たな宇宙に至る、片道旅行だと信じてい
る。ブラックホール特異点が「バウンス」して、我
われの宇宙にあふれんばかりのエネルギーを逆噴射
するような爆発になるのではなく、時空内で切り替
えが行なわれているのである。
*自己繁殖系としての宇宙
・このような考えの劇的な意味は、我われの宇宙で
つくられる多くの(ひょっとしたらすべての)
ブラックホールは、新たな宇宙の種かもしれない、
ということである。またもちろん、我われの宇宙も
このようにして、別の宇宙のブラックホールから生
まれてきたのかもしれない。我われの宇宙の物理
法則は、ブラックホールの形成を促すよう正確に
「微調整」されているように思われる、ということ
は、実は、多くの宇宙を生み出すよう微調整されて
いるのだ、ということを意味する。
・これはめざましい視点の転換である。依然として
大半の天文学者が、このことの意味をとらえようと
苦闘している。もし、一個の宇宙が存在するなら、
数多くの、非常に多くの、あるいはひょっとしたら
無限に多くの宇宙が存在するに違いないと思われる。
我われの宇宙は、膨大な数の宇宙の一構成要素に
すぎず、「子」宇宙と「親」宇宙とを接続する時空
の「トンネル」(宇宙の臍の緒と理解したらよい
かもしれない)によって連結された自己増殖系と
みられることになる。
*宇宙の進化−突然変異と競争
・今日人間は、この地球の表面で無から出現して
きたと論ずる人はいない。我われは複雑な生物で
あり、たとえ、温かな小さな池のなかであっても、
偶然的な化学物質の反応を通して生まれてくる
ようなことはありえない。より単純な種類の生物
が初めに出現し、この地球で、単細胞生物から
我われ自身のような複雑な生物体に進んでくるのに、
数億年の時間を必要とした。
・宇宙論の新たな理解が示唆していることは、宇宙
でも何か同様のことが起こっている、ということで
ある。宇宙は巨大で複雑なシステムであり、真空中
のランダムな量子的ゆらぎから偶然に生まれてくる
ようなことはありえない。より単純な宇宙が初めに
出現し、プランク長のゆらぎから我われの宇宙の
ような複雑な宇宙に進んでくるのに、何億という
世代の宇宙を要したに違いない。この考えの主唱者
はシラキュース大学のリー・スモウリンであるが、
その考え方はモスクワのレベデフ研究所のアンド
レイ・リンデが展開したベイビー・ユニヴァースの
概念を取り入れたものである。
・この議論のなかにスモウリンが導入した重要な
要素は、一個のブラックホールが特異点へと崩壊し
新たなベイビー・ユニヴァースが形成されるたびに、
時空自体が消滅しそして再構築され、物理の基本
法則がわずかに変化する、という考え方であった。
この過程は、突然変異が生物体のなかに変異を生み
出す手法と類似している(ひょっとしたら類似以上
のものかもしれない)。各ベイビー・ユニヴァース
は親宇宙の完全なコピーではなく、わずかに変異し
ている、とスモウリンは言う。
*宇宙は生きている
・スモウリンでさえ、出版された論文のなかでは、
宇宙が生きているとは示唆していない。しかし、
遺伝は生命の本質的特徴であり、このような宇宙
進化の記述は生きたシステムを扱っている場合に
のみうまく機能する。私は、我われの宇宙(多くの
他の宇宙と同様)は、文字通り生きていると確信
している。この描像において、各宇宙は、ごくわず
かな変化を加えながらそれぞれの特徴を子孫に伝え
ていくようにである。
・今や宇宙論研究者は、生物学者や生態学者のよう
に考えることを学ばなければならない。また、彼ら
の考え方を、単一のユニークな宇宙ではなく、進化
する宇宙群という脈絡のなかで展開することを学ば
なければならない。各宇宙はそれ自身のビッグバン
から始るが、すべての宇宙は、ブラックホールの
「臍の緒」で複雑に相互連関しており、また密接な
関係にある宇宙同士は、相似た物理法則という
「遺伝的」影響を共有している。
・天文学者は、我われの宇宙には、我われのような
生命体に適した惑星が10の20乗個もあると計算
している。我われは有機的生命の要素をこの宇宙の
至るところに見いだしており、また、確率的には、
それら10の20乗個の惑星の大半は、地球/ガイア
が生きているのと同じように、実際に生きている。
生きた宇宙の誕生は不可避的に生きた惑星の誕生を
もたらし、また我われ人間の種子は背景放射のさざ波
のなかに証されているのである。