投稿者 コスモス 日時 1999 年 10 月 02 日 07:51:01:
私は日本の原子力政策及び原子力産業界を批判または擁護、
どちらの側にたつ者ではありませんが、原子力工学を学んだ者
及び一人のエンジニアとして、今回の臨界事故及び放射能漏れ
について問題点を整理してみます。
1.事故を起こしたJCOの作業は何か?
原子力発電所に納める核燃料(ウラン)の加工をおこなっている。
この事業所に原子炉はなく、ウランの加工する工場だけがある。
2.どんな事故が起こったのか?
ウラン加工の工程途中で臨界量を越えるウラン溶液をタンク
に入れてしまい、核分裂反応が自発的に進行する臨界状態が
起こってしまった。
この臨界状態は原子炉内でしか発生させてはならない現象
である。
核反応を起こしたウランの量は10kg程度であり、発電用
原子炉で使用されるウラン量に比べれば少量であった。
但し放射能を外部に漏らさないための隔壁を持たない工場
で臨界状態が発生したことは非常に危険な事故であった。
3.なぜ事故がおこったのか?
現状では詳細は不明だが、事故当時は通常より濃縮度の
高いウランを使った作業をしており、
1) ウラン濃縮度の違いを作業員が把握していなかった。
2) 決められた手順と異なる操作をした。
の2つをあげられる。
こう書くと単純なミスのようにも受け取られがちだが、ウラン
加工処理にはかなり複雑な手順が必要なはずで、作業手順
のマニュアルが不備であった可能性が最も高い。
ちなみに濃縮度とはウランの濃度ではなく、ウランの中の
ウラン235(核反応を起こす同位体)の割合を示す数値である。
通常時は濃縮度3%〜4%のウランを加工処理をしていた
のが、当日は濃縮度18%のウランの加工処理をしていた。
4.安全対策は十分だったか?
核燃料加工施設の安全管理の原則的な考え方
原子炉とは違い、施設内では核反応が起きない前提で
安全性管理が行われている。
(放射性物質を取り扱う研究室、実験室と同じレベル。)
JCO、その他の言い訳
「ウラン加工で臨界状態にならない様に作業しているから
臨界事故は想定していなかった。」
これは全くの言い逃れです。
設備はともかく、事故を仮定した訓練だけでも定期的に
実施していればもっと的確な対応がとれたし、作業員の
被ばくも少なく済んだかもしれない。
関係各所への通知が迅速にできなかったのも、事故時
の訓練をしていなかったためでしょう。
5.その他
情報開示が遅いのは今までの事故例と同じ。
事故を他人事で済まして、うちは大丈夫と日本中が考えて
いる限り、繰り返されるでしょう。
10km圏の屋内待避勧告について
前述のとおり、
・放射能隔壁のない工場であった。
・核反応を制御できないタンク内で臨界となった。
2点を考慮すると、
「核反応の発熱でタンク内のウラン溶液の沸騰し
ウラン及び核分裂生成物が外部に放出される
可能性も予想された」
ので、やむを得ない判断だと思います。