投稿者 松本 日時 2002 年 2 月 24 日 17:41:53:
∇現在、惑星探査などによりわかっている金星
の大気の状況を説明した書籍がありましたので、
一部を紹介します。
この中には、「金星大気にはかつて大量のH2O
(水分)があり、・・・」といった説明もあり、
過去の状況が気になるところです。
「岩波講座;地球惑星科学−12比較惑星学,
松井孝典他,1997年」より
4 惑星大気・惑星磁気圏
4.2 惑星大気の概観
(a)金星
・金星大気は高温高圧の二酸化炭素大気で特徴づけ
られている。
大気はほとんどすべて二酸化炭素であって,3%の
窒素を含む。
地表気圧は9.2MPa,地表温度は735Kと推定される。
金星大気の鉛直構造は図4.9に,大気組成は表4.5に
示されている。
・金星は10個以上の探査機(米国と旧ソ連)が直接
大気内に入ってその場観測行っているため,地球に次
いで最もその場観測データが多い惑星である。
しかし,高温のためにプローブの寿命が短く,下層
大気の継続的なその場観測はない。
金星大気は全面的に雲に覆われているために大気外
から可視光で地表を見ることはできないが,直接的
な観測がない60年代にすでにマイクロ波の観測から
高温高圧の地表は推定されていた。
・図4.9は探査機のデータにもとづいて推定された
金星標準大気の構造を示している。
高度50−65kmに全球をほぼ一様に覆う雲の層があり,
さらにその上80−90km高度までもやの層が存在して
いると考えられている。
雲の下の温度勾配はほぼ断熱温度勾配に従うが,断熱
温度勾配よりは有意に(1K/km 程度)安定である。
地球の場合と異なって地表温度は緯度方向にほとんど
変化せず,南北の温度差は5K 程度しかない。
金星の1太陽日は116.7日(公転周期は224.7日,自転
周期は243日で公転と逆向き)と長いにも関わらず,
気温の日変化はほとんどない。
これは大気が放射冷却の時定数が大きい(表4.1参照)
ためである。
さらに,自転軸がほとんど直立しているために季節
変化もない。
・金星を覆う雲のアルベド効果と厚い大気のために
地表にはわずかしか太陽放射が届いていない。
雲のアルベドは平均77%に達しているため,金星大気
における正味太陽放射は地球における正味太陽放射
よりも小さい。
さらに厚い大気のなかで吸収されるため,地表面に
達する太陽放射は大気上端における量の数%にすぎ
ない。
それにも関わらず高温の大気が実現されている理由
は温室効果による。
Pollackらの数値計算によるとCO2が463K,H2Oが218K,
雲が113K,SO2が52K,COが13Kの温度上昇に寄与して
いるとされる。
微少量であるにも関わらず水の効果が大きいことに
注意しよう。
雲も重要である。
金星の下層大気の温度分布は,雲層の上端で有効放射
温度になるような断熱温度勾配で大まかに近似できる。
つまり雲は赤外線に対して不透明で、惑星放射にとっ
てはあたかも地面のように振る舞っている。
・大気の温度は65−100kmの間は高度とともに減少し,
地球のような明確な成層圏を欠いている。
したがって,これら全層を中層大気とよぶ。
中層大気においても日変化はきわめて小さい。
さらに高層の温度は100km以上の高度で増加し昼間側
では170km,高度で300Kに漸近する。
熱圏温度は地球よりもはるかに低い。
地球では昼夜の差は200Kで全体の20%程度であるが,
金星ではやはり昼夜の差は200Kで,この場合は100−
300Kと3倍も変化することになる。
熱圏温度の観測は原子酸素のスケールハイトの観測
にもとづいている。
夜側の「熱圏」は熱圏とよぶにはふさわしくない低温
である。
そのために,しばしばcryosphereとよばれる。
同じ用語は地球の氷点以下の領域にも用いられるので
注意が必要であろう。
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