意識の声 No.72 より

1996年7月号

 

知識と求道のはざま

 

 五月の東京月例セミナーで質問が出ました。それは「私達はアダムスキーの本だけ読んでいればよいか、それとも多くの本を読んで知識をふやすべきか」という内容でした。私が言下に答えたのは「アダムスキーの本だけ読んでいればよいというものではない。各種の本を読んで世の中を知るべきだ」です。一方、私は万巻の書物を読んできましたが、さほどの知識はありません。せっかく本を読んでも内容を忘れたら元から知らなかったのと同じで「無知」の状態になるのです。記憶が非常に重要になります。

 

 しかし私には一つの事実があります。それは私がアダムスキーに会ったことがないのに、世界の五四億の人間の中で、ほとんど私だけが今日までアダムスキーの宇宙哲学を伝える活動を続行してきたという事実です。これは我ながら一種不思議なことです。アダムスキー存命の頃は世界の十数力国にGAPの団体がありましたが、没後はしだいに消滅して、現在GAP活動を続行しているのは日本とデンマークだけです。デンマークGAPはかなり以前から英文版機関誌の発行を廃止し、デンマーク語版機関誌だけを年に一回程度出しているだけで、アダムスキー哲学研修集会などはほとんどやっておりません。したがって世界で日本GAPだけが続行しているという不思議な事実が存在するのです。これは誇張ではなく客観的事実です。

 

 最近私はパウロに関する研究書を熟読しました。彼はイエスに会ったことはなく、それどころか最初はユダヤ教パリサイ派の極右として、イエスの信奉者を迫害していたのですが、ダマスカスへ逃げたイエス信者達を殺しに行く途中、空中に不思議な雲が出てきて、そこから大きな声が響いてくるのを聞きます。「サウロよ、私はイエスだ。なぜおまえは私を苦しめるのか」と(サウロはヘブライ語名です)。これを聞いたパウロは全身を打ちのめされて一八○度の変身を遂げます。そして一二弟子の誰よりも猛烈な意欲にかられてイエスの愛の哲学の伝道の旅を続けたあげく、最後はローマで捕らえられて処刑されます。このパウロの功績によってヨーロッパにキリスト教が伝播したのです。

 

 小アジアのエフェソス出身のパウロは、若き日にエルサレムに留学して学んだ高度なユダヤ教義によって反イエス的になりましたが、元は一二弟子達と同様にイエスを援助するために別な惑星から転生してきたと思われるフシがあります。その過去世を知っていたスペースピープルの示唆によって、空中のスカウトシップからイエスがパウロに呼びかけたのではないかと思いをめぐらすこの頃です。

 

 私はなにもパウロ気取りでいるわけではありません。聖パウロの足下どころか数キロメートル近くにも寄れない卑小な人間ですが、ただ深遠幽玄な謎そのものである人間の「宿命」というものに粛然たらざるを得ない心境になるのです。そしてここで大悟させられるのは、現在の見かけはどのようであれ、人間個々の宿命は厳然たる法則に従って左右されており、それによって人生を歩んでいるという事実です。したがって、あらゆる人間の人生行路はすべて過去世からの宿命であり、それはより以上に高次元化の方向へ向かおうとするベクターに沿っているということです。こうなれば人間の今生の姿は一種の仮装行列ですが、それはただのドラマではなくて一つの「現実」そのものと言えるでしょう。こうして「現実の歩み」を重ねながら人間は悠久の彼方へ昇華してゆくものと思われます。