投稿者 松本 日時 2003 年 7 月 18 日 21:53:40:
回答先: 対称性とスピン 投稿者 松本 日時 2003 年 7 月 12 日 23:29:20:
∇昔、「量子力学を理解している人などいない」と言
った人がいましたが、現在に至っても、状況はあまり
変化していないというのが実態なのでしょうね。
「単純な法則に支配される宇宙が複雑な姿を見せるわけ，
ジョン・D・バロウ，2002年」
以前、有名な理論物理学者が、アメリカの大学の大学院生
になった最初の週に起きた困った経験のことを話してくれ
たことがある。理論物理学の新入大学院生にならたいてい
そうなのだが、この先生も学部のときはきわめて優秀な
学生で、しかるべく作られた問題であれば、さっさと解い
てしまう特殊な才能があった（三時間で六問ほど）。
自信満々で、毎週授業の始まる前に行われる研究科のメン
バーが集まる茶話会に初めて出ることにした。
学生時代の先生が座った隣には、背が低く、頭がはげかか
った、ヨーロッパ出身の科学者がいた。
何か早口でぶつぶつ言っていたが、先生が腰を下ろすと、
親切なこの隣の人物は、先生の方を向いて、ぼんやりして
「量子力学がわからないんですよ」と言った。
ここぞとばかりにお手伝いしようとして、先生は「いや、
とてもわかりやすいですよ。こんな感じです・・・」と
答えて、それから五分ほどかけて、相手に基本的方程式の
立て方、単純な解の見つけ方など、学生時代に習ういろ
いろな技法について、初歩的な解説をした。
年上の科学者は実に礼儀正しく耳を傾け、時には説明が
わかりやすいとお世辞を言っていたが、ときおり、先生に
は全然答えられない厄介な質問もした。
間もなく研究科長が手を叩いて、全員講義室へ移動する
ようにと言った。
この時点で年上の科学者は若い大学院生にやたらとお礼を
言い、「お目にかかれて大変うれしいです。お名前は何と
いいますか。私はユージン・ウィグナーと申します」と言
った。
自分が講釈した相手が、２０世紀最大の理論物理学者の
一人であり、ノーベル賞も取り、最悪なことに、量子論の
発達にいちばん大きな貢献をした一人であることを知って、
大学院に入りたての先生は足下の床が抜けてくれればいい
と思った。不運なことに、相手がお目にかかれる中では
いちばん謙虚な科学者の一人であることもわかった。
ところでウィグナーが一人でぶつぶつ言っていたことは何
だったのか。それは科学の大きな謎の一つにかかわること
だった。
量子力学は、原子や分子の領域での動き方を、見事な精度
で予想する。この理論の出す予測の中には、小数点以下
１２桁まで正しいことがわかっているものもある。
ところが、この未曾有の精度にまで達する数学的手順の
物理的解釈は、理論が立てられて以来、議論の的であった。
「量子力学を理解している人などいない」とリチャード・
ファインマンは断言したことがある。